らくがき-Ya!【本館】/【Fan Art】-ストレイト・ジャケット・おバカな小話-

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 トンッ……、と。

 肩が彼女にぶつかった弾みで、かき混ぜていたボールの中身が飛び散った。
「ひゃっ!!」
「あ」
 自分の側で手元を覗き込んでいた彼女の顔や胸元に、思い切り生クリームがかかる。
「おわっ! すまん!」
 レイオットは慌てて手を止めるとタオルを手渡した。苦笑しながら受け取ったタオルでクリームを拭っていくネリン。
「いえ、こちらこそ。済みません、スタインバーグさん。つい近くに行き過ぎました。危ないですもんね、気を付けます」
「まあ、エプロン付けてて助かったな」
「そうですねー」
 彼女はすぐ側にいる青年に向かって、のんきに顔を上げて聞いてきた。
「大体取れましたかね?」
「ああ――」
 取れた、と言おうとして気がついた。頬の下、顎の近くにある白い小さな塊。
「あ」
「え? 何で」
 ぺろり、と。見つけた塊を舌で拭った。
「す、か……」
 ネリンが凝固する。
「あ、……あの、いま……」
「ん? 今? どうかしたか?」
 ボールを手に取りクリームの硬さを確認すると、再び混ぜ始めるレイオット。あまりにも平然としすぎていて、今のは気のせいだったのかと思ってしまう。
 どう反応していいのか全く解らない上に、声を掛けるタイミングを逃がしてしまった。怒るべき所だと思うのだが、レイオットは黙々と腕を動かしているし。
 青年の様子を見つめたまま、ネリンは台所の前でどうしたものかと頭を悩ませていた。
「あ、あのー……」
「監督官、ちょっと、そこにある絞り袋取ってくれるか? 口金が薔薇形のヤツ」
「あ、え? 薔薇形?」
「マヨネーズのボトルの先についてるような形の」
「んーと……、これですか?」
「そ、それ」
 ネリンは、あらかじめ準備してあった幾つかの絞り袋の中から、一つを選び出して手渡す。
 レイオットは、クリームをヘラを使って受け取った袋の中に入れると、手元に小皿を引き寄せ軽く搾り出して具合を確認した。
「ま、こんなもんか」
 下地の出来上がっているまっさらなケーキの方に移動すると、少し考えてから両手を動かし始める。滑らかなケーキの表面に繊細な模様が描かれていく。
 昔、バーカウンターのある喫茶店でバイトをした事があるという。そこで覚えたが、今はもう菓子の類は作らないと話していた。それで腕はさほど鈍っていないとは、この青年は妙な所で芸達者だ。
 一区切り付いた所で手を止めるレイオット。
「お前さんもやってみな」
「え~、遠慮します。流石にそれは自分には無理です」
 ネリンは即座に拒否した。スポンジケーキ作りとクリームを表面に塗る作業は自分も手伝ったけれど、見た目については手を出す気になれない。そんな恐ろしい事はできよう筈も無いと、全身で拒絶する。
「何のために家にきたんだよ。それじゃ意味無いだろう」
「で、でも初回からいきなりそれはちょっと……」
「そんなじゃ、いつまで経っても上達しませんよ? お嬢さん。オネイチャンとして、多少なりとも 『らしい』 所を見せたいんでショ」
「うぅ……。それを言われると辛いものが」
「ナレア嬢の誕生日まで、もう間が無いんだろう? 何度か作って慣れておかないと」
「くうぅぅぅ~~……」
「最終的には全部アンタがやるんだから」
 観念したネリンは、青年からクリームの入った絞り袋を受け取って溜息をついた。