らくがき-Ya!【本館】/【Fan Art】-ストレイト・ジャケット・普通の小話-

 スラッシュ小説=主に、同性愛などを扱った女性向けのポルノ小説(いわゆる腐女子向けの同人やBLの類)……だったと思う。

2006/06/25 初稿
2009/10/15 全面改稿
2014/07/12
 サイト掲載にあたり部分修正。

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 それは、管理局の地下にある社員食堂で、打ち合わせをしていた時の事である。

「ん?」
 4脚ある椅子のうち、空いている椅子の一つに置いてあるネリンの鞄、その上にひっそりと乗せられている文庫本に気がついた。
 しまい忘れたのだろう。カバーがかかっているのでタイトルは分らないが、暇潰しに本を読む機会の多いレイオットは、何となく気になった。
 頭の堅い彼女が読む本とは、どんな内容だろうか。
 ネリンが小用で席を外した隙に、ひょいと文庫を取り上げ、ぱらぱらと目を通す。
(へ――……)
 彼女もこういう所があるのか。
 レイオットはちょっと、というか……かなり感心した。
「ああっ!!」
 背後から突如声があがった。
 猛然と走り寄ってきたネリンは、青年が手にしていた本を一瞬で取り上げた。
「しっ、し、し、失礼じゃないですかっ。人の物を勝手にっ!」
 文庫本を背中に隠し、人目も忘れて声を張り上げる。
「何だよ、本一冊にえらい大袈裟だな」
 大仰な反応を示す監督官に、レイオットが苦笑する。まあ、内容が内容なだけに、その気持ちは分らないでもないが。
「しかし、監督官もそういうのを読むんだな。ちょっと見直したよ、単に頭が堅いってだけじゃあないんだ」
 ただ本当に感心しただけで、これといった含みはなかったのだが、レイオットの言葉に彼女の顔色が変わる。肩がぴくりと揺れたのを、目敏い彼は見逃さなかった。
「俺はそういう趣味はないけど、最近は女性に結構人気らしいな。スラッシュ小説とか言うやつだろ?」
 余分な言葉をさらりとつけ足してやる。
「こっ、これは……フィリシスが貸してくれたんですっ! ストーリーが面白いからって。べっ……、別に、ソレが目当てで読んでる訳じゃありませんっ!」
「ふ~ん。そうなんだ」
(斜め読みした感じ、結構ハードっぽかったけど)
 という感想は口にしないでおいた。代わりに、レイオットはワザとらしく頷く。
「ううっ。ス、スタインバーグさんだって、たまには読んだりするでしょうっ?!」
「いや、読まない」
 監督官の苦し紛れに、彼は瞬秒で返答した。
「話の展開上、濡れ場が出てくる事はまま有るけど、ポルノ自体は読まんね。つまらんし、興味も無いから」
 実際そう思っているのだろう。レイオットは何処までもあっさりとしていた。
 一方、ネリンは言葉につまる。
 男なんだから、エッチな本の1冊や2冊読むだろう。と思っていたのだ。反撃してやろうと構えていたのに。
「…………」
「何だよアンタ。ひょっとして俺、ソウイウ風に見られてる?」
「…………」
「いやらしいな、監督官。実はエッチな人なんだ」
 レイオットは彼女から距離をとるように、椅子を軽くずらした。
「……覚えてなさいよ、レイオット・スタインバーグ、いつか吠え面かかせてやる!」
 咄嗟に上手い言い返しの出来なかったネリンは、悪党の捨て台詞と同じ言葉を吐き捨てて眼前の青年を睨みつける。
「あーはいはい、首を洗って待ってるよ」
 いい加減な調子でレイオットが返した。

 そんな感じで話題は打ち切られ仕事の話に戻ったのだが、打ち合わせが終わっても監督官はどこか不機嫌だった。
「……レイオット、スポーツ紙に連載されている官能小説は読んでますよね」
「し────っ……」
 帰り際、監督官に聞こえないようぽつりと零すカペルに、自分の口元に右手の人差し指を当てたレイオットが、そっと口止めをしたのである。

──END──